※雷さん家のレイジェンさん(牛)&ミシェル先生(狸)と、ウチのファル(牛)&ラク(狸)を
 再び共演させて頂きました。ありがとう雷さんっv

◆小説→[Glass-sic Thunder]の虹霓 雷さま/背景イラスト→あず◆


     >>>     アフタヌーン・ティ


 キッチンを行ったり来たりする時に揺れる、先のふさふさとした尻尾を眺めながら、
ミシェルはある種の至福を感じていた。
炎の熱によって他の場所よりも若干暖まった部屋の中は、美味しそうな匂いと色彩が溢れている。
其れは、今回料理を担当する事になった二人の料理の腕が高い為だけではなく、その過程を眺めて
いると何だか微笑ましく思えて、この料理は美味しいのだろう、と確信してしまう心理の所為でも
あるように思えた。
作っているのは、紅茶に合うだろう可愛らしい洋菓子。その甘い香りに鼻をくすぐられると、
ミシェルは更に至福を感じてしまう。
甘いモノは、大好きだから。それが何であろうと。
「ラク先生、ミシェがヤラシイ眼で見てくるんで殴っといて下さいー。」
 レイジェンが苦笑しながらラクに言った。其処まで邪な眼で見ていた訳ではないのだが、
彼は如何せん鋭いから、仕方が無いかもしれない。
声を掛けられたラクはと言うと、少しのんびりとした動作でぽんぽんとミシェルの肩を叩いて、
また先程していた格好に戻った。
その格好はかなりリラックスしたもので、如何やらこの状況を少し嬉しく思っているようにも
思われた。気持ちを簡易的に表す尻尾がふわふわと揺れ動いている所からも、其れはうかがえる。
「センセー、煙草の灰は灰皿に、だよー?」
 ぱたぱたとテーブルに近付いて、ファルがちょんちょんとラクを突付く。その動作がまた、
彼の柔らかな性格を現していて、同時に何と可愛らしい事か。
ラクも同じ事を思ったのか、おもむろにむにゅー、と彼の両頬を押す。ファルは子ども扱いされたと
思ったのか、むー、と少し膨れたが其れを口に出す事はせず、結局ラクのするがままに任せるようだ。
「ええのぅ…。」
「ハイハイ、邪なミシェは黙っとく。」
 レイジェンの頬に手を伸ばしかけたミシェルだったが、軽くあしらわれてしまう。レイジェンは
そのまま四人分のティカップに紅茶を注ぎ、並べていく。
 特有の香りが、甘い香りに巻き付いていった。



 一体何処で遇ったのか。一体何時、こんな事をしようと約束したのか。
其れを言えるヒトは誰も居ないが、結果的に彼らはこうして午後の紅茶を楽しむに至っている。
暖かいストレートティと、焼きたての菓子を口に含みつつ、彼らはゆっくりと日々の戦いから離れるのだ。
それは確固たる決心だとか、死と生の狭間だとか、そう言った恐ろしく、また酷くスリルのある日常を
忘れるには足りないが、一瞬だけでもそれらを頭の隅に追いやるのには適していた。
 恐らく彼ら自身も、起きていようと寝ていようと常に何処かで何かと戦っていて、其の中での休息など
得られはしないのだから。それならば、こんな長閑な一日も悪くは無いのだ。
『急いては事を仕損じる』
 全く以って、昔のヒトは巧い事を言ったものだ、と思う。
急ぐな、と言われても、急いでしまうのが現代のヒトの性だ。其れにあがなう事は、出来そうで、実は
そうそう容易く出来ないようにも思える。
(ミヒャエル・エンデの『モモ』だな、こりゃ。)
 そう考えながら、ディルグレッソ・ティを口に含む。程よい苦味が舌を滑る様を思い描きながら、談笑する
レイジェンとファルを眺めた。そして、其れを眺めながら口元に柔らかな笑みを浮かべるラクへ。

 暖かくて、

 柔らかな。


 心地好い、時間。



 後片付けは、必然的に自分達になった。まあ、其れは仕方が無い。
渋るラクと二人で食器を洗いながら後ろを見ると、二人はファルの連れているペット――ブルーペンギンと
戯れていた。
「また、こう言う風に逢えたら良いな。」
「…そう、だな。」
 小さな会話。
実際に、またこうして逢える事は、実は無いかも知れないと思いながらも。
けして縋る訳ではないが、でも、再び彼らと逢えたら、どんなに良いか。
 ミシェルは、スライが言っていた事を、ふと思い出した。

『この世界は壱つなんかじゃないんだ。
 世界は意思の数だけあって、
 常に繋がり
 常に塞がれているんだよ、ミッシー。
 その塞がれた扉を開けるのは自分自身だし、
 閉めるのもまた、同じ。

 …アンタが他人と世界を共有する事を、
 よしとするのかどうかは、
 私は知らないが、な。』


 今なら、その意味が判る。
簡単に言ってしまえば、信じてりゃ、また逢えるって、そんな陳腐な事。
けど、其れこそが彼女の言う扉なのだろう。信じる事は、意外に難しいから。
 後ろから、ぺそ、ぺそ、とレイジェンがブルーペンギンの名前であろう単語を発しているのが聞こえた。
そして、ファルが笑いながら、ぺそ、初めて見るレイさんの事怖がってるのかな、と言った声も。

「おい、皿洗い終わったぞ?」
「あ、はーい。」



 いつか縁が切れてしまっても。



「今度また、逢えたら良いね。」
「絶対、また逢えるよ!」



 逢えると信じれるならば。



「な、ミシェ?」
「おう、…そうだな、また逢えるだろうさ。」



 其れは、容易いのだろう。



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◆小説/虹霓 雷さま後記
ゲスト二人をお迎えして、没った絵の替わり小話でした。
お二方が別人で申し訳ないッ!
でも、俺のお二方のイメージは『柔和で優しい』、『物静か』なんですよね…。
因みに最初、ラク先生はファル君の頬ではなく頭をくしゃくしゃしてました。(危ない危ない

あず様お二方を快く貸して下さって有難う御座いましたーッ!!
この小話は、あず様のみ自由にして下さって構いませんですー。

2005.10/22     脱稿。


◆背景絵/あず後記(透過なしイラストは
こちら)
前回の「共演」が微妙に不満足だったので(当時の精一杯でしたが/笑)、再挑戦できて幸せでした。
現状では満足できてます、はい!無計画すぎた背景を除けば!…orz

レイさんは格好よくて優しい、ミッシー先生は優しくて格好いいけれどプチヘタr(黙れ愚か者がッ!!
そんなイメージを前面に押し出してみましたが、やはり別人ですね…;
小説で素敵に描いて頂いたので、ファルもラクも格好つけて余所行きの顔してます(笑)

私信→雷さんっ、こちらこそ素敵に描いて頂いてありがとうございましたっ!!
こんな絵になりました、煮るなり焼くなりお好きになさってくださいませっ。

2005.10.