◆牛総受けで狸牛小説/酒宴

正月っていえば、やっぱりハメを外しがちなイベントなワケで。
ライオと談笑していたファルのオレンジジュースに、ちょっとだけオレの杯からスコッチを入れてみたりして。

アクセサリやスポーツ用品の福袋が店に並ぶとかで、花も綻びそうに華やかな晴れ着の女性陣は、
可愛いポーチを手に手に、4人で仲良く出かけていった。

生真面目なイプやフォウ姐さんが留守だからこそ、そんな悪戯ができたワケだが…
はい、ご多分に漏れず、後悔中ですよ。
変わらずに談笑しているように見えたファルは、突然へにゃりと床に沈みましたよ。

暴れたり泣いたり怒ったりするよりは断然マシだが、暑いとかいって脱ぎかけるし、
誰彼構わずひっつこうとするし、床が冷たいとか言って転がるし…神様ごめんなさい、もうしません!

ちょっと可愛いとか思ったりしてません、今後は二人っきりの時にしか飲ませません!
だからシャキッと一発酔いを醒ましてやってください!助けてください!



神に祈るオレの横で、相変わらずファルはさながら人間ローラー、ごろごろ転がっている。
どうしたものか…とりあえず部屋に運ぶべきか。よし。

「ファー、一度部屋に戻ろう、な」

がっしと掴んだ羽織は、そのままファルの腕から抜けた。
ころん、と転がったファルの先には、紋付でもゴーグルは外さないライオくん。

…心なしか、ライオの顔も赤いんですが。

手にしたグレープジュースは、妙に泡立ってる。

…アタマ痛い。

頭を抱えたオレの前で、ライオはけらけらと笑った。

「タヌせんせーい、ビールって苦いのなー。ジュース入れちゃった、あひゃー」
「あひゃーってお前。つか先生はタヌじゃなくてラクです」
「んな細かいこと気にしなーい。なー、ファルー」
「んあー…」

ぽんぽんと叩かれた頭がスイッチになったのか、ファルはライオにぺたりと貼りついた。
頭を撫でていたライオの手が、肩まで肌蹴たファルの背中に入り込む。

「よしよーし…あー、ファル触り心地いいなー」

って、ちょっと待て!触り心地いいのは分かるけど!

そのままするりと襦袢を脱がせかかったライオの手を、オレは慌てて掴んだ。

「ライオ、酔ってるな!?ちょっと頭冷やしてきなさい、ね」
「えー?平気だもーん。もっと触るー」
「駄目、却下、触るな。離れなさい」
「ケチー!ファルは先生だけのものじゃないぞー!」
「ケチで結構、いいから離れなさい。だいたい何飲んでるんですか未成年」

べりっ、とライオの手からファルを剥がして、オレの腕の中に収め…
…あれ?

オレの腕を掻い潜って、ファルはふらふらと歩いた。
そのままふらりと倒れこんだ先には、ライオ以上に始末の悪い敵。なんてこったい。

「んー…リュウー…みずー…」
「…ああ」

リュウは涼しげな顔で、テーブルの上の水差しからグラスに水を注いだ。
そのグラスから一口水を口に含んで、へばりつくファルの顎を持ち上げ―って、ちょ!

「まま待てぃ!リュウさん、何なさる気デスカ!?」
「…んむむ、むむむむ」
「…まずソレ飲みなさい、自分で」
「…水を、飲ませる」
「…普通にグラスから飲ませればいいでしょ」
「………断る」

言い放ったリュウは、ぐいっとグラスを仰いで、止める間もなく唇が重なった。
ファルの喉が動いて、とろんとした目が何度か瞬きして、閉じた。

ってオイ!抵抗しろよ!せめて拒否する意思くらい見せろよ!!
真っ白になったオレの前で、ファルはリュウの胸板に頬を擦りつけた。

「みずー…もっとー…」
「ああ」

…はっ、真っ白になってる場合じゃない!

「リュウ!酔っ払いの介抱は先生に任せて、のんびり楽しみなさい、ね」
「必要ない」

へばりつくファルを片腕で抱きしめて、リュウは無表情にオレを一瞥した。
睨んでる睨んでますよ。マジックアロー飛んできそうですよ。

かくなる上は、オレの取れる行動は、ただひとつ。

「ファルくーん、ぺそはどうした?」
「…ぺそ」

大人しくリュウに抱かれていたファルが、ぴくりと顔を上げた。

ファルが可愛がっている、ペットのブルーペンギン。
非常に寂しがりやで、知人が側にいないとピーピー泣き始めるから、ファルは大概連れ歩いている。
今日は寝てたから置いてきた、と言っていたけれど。

「そう、ぺそ。今頃部屋で寂しがってないかな?」
「…うん…」
「部屋、帰るか」
「…うん。リュウ、みず、ありがとー」
「…ああ」

にへら、と笑ったファルに、リュウは薄く頬を染めて顔を背けた。
ライオといい、一体いつの間に引っ掛けたんだ。



フラフラと歩き出したファルが、カーペットにつまずいてよろけた。
危なっかしくて、見ていられない。色んな意味で。

「あーもう、大丈夫か?ほら、乗れ」
「いーよー、歩けるからー…」
「ぺそが待ってるぞ?」
「…おねがいしまーす…」

差し出した背中に、心地良い重み。
ぺそが心配だから乗ってくれたっていう辺りは、ちょっと物悲しくはあるが。

もっと甘えてくれていいのに。
むしろもっと甘えろ。

宴会会場のフロアの食堂からは、ファルの部屋は50メートル程度。
どんなにゆっくり歩いても、すぐに着いてしまう。

「ファー。ほら、着いたぞ」
「ん…開いてるよー…」
「そりゃ開いてるだろうけど。新年早々、いいのか?先生部屋に入れちゃって」

しかも、そんな誘ってるようにしか見えない格好で。

「いいよー。せんせーだし、ぺそも喜ぶしー」

声が蕩けてる。首にかかる息が熱くて、非常にヤバい。

歯止めが利かなくなる前に、急いでファルをベッドに下ろして、ソファーの上で丸まってるぺそを覗き込む。
よだれを垂らして、ぺそはぐっすり眠りこけていた。

「ぺそ、まだ寝てるー?」
「ぐっすり」
「そっか、よかったー。…せんせ、これから予定あるー?」
「いや、特にないが」
「んー…」

物言いたげな、でもまだ蕩けてる、真紅の瞳。
ベッドに転がるファルの横に座って、乱れた赤い髪を撫でた。

「オレに、帰って欲しくない?」

酒で赤くなっている顔が、もっと染まった。
普段はこんな風に甘えてくることなんてないから、さっきから心臓がうるさい。

ファルは、迷うように少しだけ視線を泳がせて、目を合わせて小さく頷いた。
立ち上がろうとすると、羽織の端をファルの手が掴んで…心細そうに見上げてきて。

…どきゅーん、て感じですよ。

「ちょっと待ってろ、な。鍵かけてくるから」
「……!!」
「ん?イヤか?」

茹でだこみたいに真っ赤になったファルの耳元で、やめろって言われてる低い声で囁いてみたり。
それだけで、ファルはぴくりと体を揺らした。

額にキスして、耳にもキスして、首筋にもキスして、頭を撫でる。
もう一度イヤか、と訊いたら、小さく首を横に振った。

大股でドアまで歩いて、鍵をかけて…ベッドの上のファルに、オレは沈み込んだ。



はい、今日の先生の話は、ここまで。
ここから先はトップシークレット、ご想像にお任せします。


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拍手で頂いた「牛総受けでラブラブ狸牛」、ついでに「乱れ牛」でした。
オチ、あからさまに逃げましたごめんなさい。

Sさん、こんな感じですが…如何ですかね?ちょっと違いましたかね?;