◆獅子牛/セーフティ

「お待たせー」

作りたての応急ヒールポーションを抱えて、町外れに戻る。
芝生の上にブルーペンギンと並んで座ってたファルが、のんびりと笑った。

「お帰りー」
「ほい、ライオさん特製・応急オレポー」
「あ、ありがとう。…おれぽ?」
「オレのポーションの略。ホントお前、怪我が絶えないよなー」
「あはは…」

この島に向かう船の中で友達になって、島に滞在するのに提供されたホテルでも、偶然同じフロア。
自然と仲良くなって、当たり前みたいに二人で出掛けるようになって、今日も洞窟を探索してきた。

ファルが前衛で敵を引き付けて、オレが後ろから銃でトドメ。
比較的安全かつ良効率だけど、問題がひとつ…前衛の怪我が絶えない。

元々ファルはラヴィと同じで、敵を倒すには向いてるけど、護るのはあまり得意じゃない。
だけど、オレはファル以上に壁に向いていないという悲しい現実があるワケで…頼らざるをえない。

タヌ先生…もといラク先生あたりに前に立って貰えば一番いいんだろうけど、あれで先生は教師だ。
誤射したら危ないから人が居る方に銃口向けるなだの、合成はちゃんとレシピどおりにとか、口うるさい。

当たり前のことしか言ってないから、反論できないし。反論してみたところで、口じゃ勝てないし。

「だー!ムカつくー!」
「へ!?な、何?」

青ペン共々ビクッとして、ファルが首を傾げた。青ペンも一緒になって、小さく首を傾けてる。

「ファル!怪我治った!?」
「あ、うん、大丈夫だけど…」
「けど?」
「ぺそがお腹空いたって…」

ファルの服の裾を引っ張って、青ペンがぴーぴー鳴いてる。
時計を見ると、11時半。思い出したように、ちょっとだけ空腹感。

「あー…ちょっと早いけど、お昼にするかー。場所も丁度いいし」
「うん」

のほほーんって感じの笑顔を浮かべて、ファルが左腕の結晶を起動させた。

通信からキャンプ設置、果てはアイテム取り引きと管理…どういう仕組みだか知らないけど、
この島に来た時に取り付けられた結晶は、メチャクチャ便利だ。

装備中の武器や防具は別だけど、他のアイテムは規定量内なら幾らでも結晶の中に収納できる。
多分だけど、実物はどこか別の場所に転送・管理していて、結晶は端末みたいなもので…

…やっぱ一度バラしてみてぇ…!

巨大二足歩行ロボットを結晶で呼び出せるようにして、来いー!オレロボー!なんて…

「ライオ?用意できたよ?」

見慣れたバスケットから出てくるのは、サンドイッチとちょっとした料理、それとお茶。
青ペンは芝生の上で、一心不乱にビスケットをかじってる。

サンドイッチをひとくちかじって、ベーコンと両面ぽくぽくの卵、特製ソースの味を楽しみながら、
それでも思考は飛んでいく。

被弾数を減らせれば手っ取り早いけど、ファルは別に回避を怠ってるわけじゃない。
装甲を厚くするって手もあるけど、手数で勝負してるのに防御固めろっていうのは酷だ。

そうなると行き当たるのは、魔力を秘めて特殊な効果をもたらす装飾品。
それなら軽くて動きの妨げにならないし、効果も薄くない。

ただ、材料と技術が必要だし、手間はもちろん掛かる。
でも、手間って言うなら、こうやって毎日オレの分まで弁当用意してくれるのもひと手間だろうし。

問題は材料かー。自力で集めて、作成話を土産に完成品プレゼントー!なんてしたいけど。
…体力が上がる種とかないかな。ライオの体力は3上がった!みたいな。

「あ、ぺそ、ダメだよ」

ファルの声がして、サンドイッチをかじる手が止まってるのに気付いた。
パンの間からずり落ちかかってたベーコンを狙って、ぺそがオレの足の間で飛び跳ねてる。
さっきまでかじってたビスケットは、もう影も形もない。

オレのサンドイッチのパンから、バターもマスタードも付いてない部分を千切って、ぺその前に置いてやった。
ぺそは目の前に置かれたパンとオレの顔を見比べてから、ようやく嬉しそうにパンをかじり始めた。

「お前、よく食うなー。飼い主に似るってホントかもなー。あ、でもぺそは食っただけ丸いか」

ぺその頭を撫でながらファルを見ると、ファルは困ったように苦笑した。

朝からベーグルサンド8個にデザートのフルーツヨーグルトーとか、満腹中枢さん逝っちゃってるんじゃないか?
ってくらい食っておきながら、三食の合間にも軽食作って食べたりしてる。

食べる?とか言ってにこにこ差し出してくる"お裾分け"に付き合ってたラヴィやキャーが、
体重増えたー!減量ー!もう甘言には乗らないー!とか言って走ってた。

バスケットの中にぎゅうぎゅうに詰まってたサンドイッチは、もう随分消えてるし。
パンを食べ終えたぺそが自分の膝によじ登るのを見守りながら、ファルはお茶を飲んでる。

「…そうだ、肉襦袢(にくじゅばん)」
「へ?にくじゅ?」
「いっそマッチョスーツ?でも重いしそんな姿見たくないし…やっぱりアクセが手っ取り早いよなー…」

フォークに刺したタコさんウインナーを口に入れて、合成で作れるアクセ類と材料を書き写したメモを開く。
幾つかは安全な場所で発掘できるものだけど、魔物が持ってるものもある。
しかも今のオレには、一人じゃ手に余る魔物ばかり。

「なに?合成?」

声のほうを向くと、オレのすぐ横で、ファルがメモを覗き込んでいた。
思いがけない近さにびっくりしたけど、そんなこと、ファルが気付くはずもない。

「材料集め?手伝おうか?」
「え、あ、いや…そりゃ助かるけど」

助かるけど、それじゃ「いつも壁になってくれてありがとう、今後ともヨロシク☆」なんてお礼を添えて
爽やかにアクセを渡すというオレの壮大な計画が。

「あ」

でも一人で、と言う前に、ファルが腕の結晶に反応した。誰かから通信が入ったのかな。
と、続けてオレの結晶からメモが飛び出した。

『ファル、借りるな』

慌ててファルを見ると、誰かと話してる。ファルの口調から察するに、メモの送り主と同じヤツ。
貸しません、と手早くメモを送り返して、まだ話してるファルの肩を突付いた。

「ラク先生だろ?いいから放っといて行こ。材料集め、手伝ってくれるんだろー」
「あ、うん。せんせ、ごめんね。また今度付き合うから」

よし、勝った。一人で材料集め作戦は失敗だけど。

「そういえば、何を合成?」
「ん、アクセ。成功したら、ひとつやるからな!」
「え、いいの?わー、ちょっと楽しみかも」

ひとつも何も、ファルの為に作るんだけど、黙っておいた。
言ったら「気にしなくていい、いらない」の一点張りで聞かないだろうし。
さりげなくでも受け取ってもらえるんなら、とりあえず目的達成だし?

「よっし、行くぞ!全部失敗したら、合成士に爆竹投げつけて逃げてやるー!」
「人に向かって投げちゃいけないんだよー?」

予定はちょっと狂ったけど、一緒に戦える分、まぁいいかってことにしよう。
ただでさえ、自分の身にファルの安全、他人のチョッカイ…護らなきゃいけない項目は大量なんだから。


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グダグダですみません(´A`;
獅子牛も好きなんですけど、どうしても友情の延長にしかならない…orz