◆開始-牛と獅子(牛・獅子)

「…え?遺産探し?」

いっそ笑えるくらいに目立つ紅い髪を、紅葉と灯籠が目立たなくしてくれる秋祭り。
その最中、突然の魔物の襲撃で両親と故郷を失くしたのは、もう5年前になる。

魔物を排除しに来た―手遅れだったけど―モンスターハンターたちの好意と助力の元、
奇跡的に生き残ったおれたちは彼らの街に下り、そこで学校に通いながら、ハンターの資格を取った。

目まぐるしい日々に埋もれ、悲しみも痛みも和らいだ頃、ハンター仲間が一枚のチラシを持ってきた。

「行ってみないか?この地区のハンター代表ってコトで―っても、肩書きは適当に変えてもらうけど」

どこぞの資産家が亡くなって、その遺産を己が作ったテーマパーク内に隠した。
その隠された遺産を見つけたものは、まるっと遺産を貰えちゃうよ…という話がチラシには書かれていた。

「どれだけ莫大な遺産なのかは知らんが、もし見つけられれば、シンデレラボーイ。
 見つけられんでも、いい経験になるだろ。島特有の魔物が多数管理されているらしいしな」

トレジャーハンターには宿泊先を無料で提供、生存面は保障されます…すご、至れり尽くせり?
双子の弟・ティガが、不機嫌そうにチラシを覗き込んで、眉を寄せた。

「ちょっと待てやおっさん、ファーは凄まじい方向音痴だぞ?一人で行かせられるかよ」
「何事も修行、その辺も改善されるかもしれんだろ」
「つーか何でファーなんだよ、危なっかしいだろ!」
「ついでにお前さんのブラコンも直してやろうって寸法だ、ありがたいだろ」

えーと、深い森・明るい南国・美しい海中・厚い雪山に加え、島特有の文化も多数。
各地から集まった人々との交流も楽しめます。

「ブラコンじゃねぇ、兄思いっていうんだよ!でっけえお世話だ!」
「ティー、うるさい。ええと…どうしておれに?実力なら、他の人のほうが」
「息抜きしてこいって事だよ。お前、村を出てからこっち、ずっと気張りっぱなしだったろ」
「でも…」

「ほら、ファーも嫌がってんだろ!つーワケで反対!」
「本人の意思を尊重しようぜ、なぁ、ファル」

…もし遺産を見つけられたら、おれ達みたいな思いをする人、少しは減らせるかな。

「行ってみようかな…」
「は!?」

「よし。旅費はハンター 一同からカンパ出るし、遺産はまぁ期待せんで待ってるから、楽しんでこいよ。
 若いんだからゆっくり遊んで、色々見て、聞いて、のんびり学んで来い」

「ちょ、おっさん!なんだよファーまで!」

人懐こく可愛らしい島の動物も、ペットとして島内で開放・購入可能。ペンギンもいるかな。
こめ、イベント終了後は、ご希望次第で規定数のペットのお持ち帰りもできます。ペンギン欲しいなー。

「ね、ティー、ペンギンいたら連れて帰ってきてもいい?」
「ぺン…はぁ!?」
「島で買ったペット、連れて帰ってきてもいいんだってー。ペンギンもいるといいな」
「…まさかお前、そこで決心したんじゃないだろうな…」



広くてなみなみしてて―内陸から出てきたおれにとって、海は想像以上だった。
島へ向かうというこの船を港で見たときは、大きくて驚いたけど…海の上じゃ、木片みたいなものなんだろうな。

遺産狙いのトレジャーハンターが集まってるってだけあって、船の中は屈強そうな大人ばかり。
桃色のスーツのお姉さんを一度見かけたけれど、女の人や同い年くらいの人は、本当に少ないみたいだ。

何となく所在がなくて、だけど折角船に乗ってるのに部屋にいるっていうのも詰まらなくて、
おれは甲板でぼんやりと海を眺めていた。

不思議なにおい―潮の香り、ってものらしい―にも慣れて、何もない海にも慣れて。
ふと横を見ると、同じようにボーッと海を眺める、おれと同じくらいの年頃の顔。
間髪いれずににその顔がこっちを見て、申し合わせたように、おれたちは笑った。

「なんだ、大人ばっかりかと思ってたら、同じくらいのもいるんじゃん。どもっス、オレ、ライオ。よろしく!」
「ファルです、よろしくー」

金色の髪を風になびかせて、人懐っこそうに彼は笑った。

「な、そのアタマ、地毛?すげー赤、カッコいいなー」

いつもバンダナで隠してる、真っ赤な髪。昨日甲板で風に攫われそうになったから、今日は外してたんだった。
否応なしに人の目を引くこの髪について触れられるのは、本当はあまり好きじゃない。
けれど、ライオの口調があまりにも軽い所為か、別に気にならなかった。

「けっこう不便だよー。むやみに目立つし」
「あー、たしかに。ファルは部屋、どのへん?」
「ええと、船尾寄り…かな」
「だからかー。オレはアタマのほう。視界に入ってたら、絶対見てるハズだもんなー」

なぜか悔しそうに言うから、つい、首を傾げた。
必要以上に弱く見られるぞ、っていうハンター仲間の言葉を思い出して、慌てて頭を元に戻す。
おれが気付くのが遅かったのか、ライオが目敏いのかは分からないけれど、ライオが笑った。

「昨日も一昨日も、ずーっと暇だったんだよ。退屈死にするんじゃないかってくらい」
「そんな、大袈裟な」
「や、マジだって。話せる奴いない・遊び相手いない・海には何にもない・で、苦行三重奏?
 でさ、ファルは何でお宝探索隊に参加しようと思ったんだ?」
「うーん、周りに勧められたから…かな。社会勉強しながら息抜きしてこいって」

「…なんかよくわからないんですけど」
「うん、おれもよく分かんないや。ライオは?」
「オレ、機械いじるの好きなんだけど、材料費がバカになんなくてさー。もし遺産見つけられたら、
 巨大二足歩行ロボットー!とか作れそうじゃん。二足歩行は技術面で無理かもしれないけどさ」
「きょ…きょだいにそくほこう?」

「うん。そんなもの作れたら、ホラ、子供向けのナントカレンジャー!みたいな番組あるじゃん?
 あんな風に、正義の味方を乗せて戦うオレロボ開発できたら、便利だし面白くない?」
「おれろぼ」
「オレのロボットの略。んーまぁ、人は乗れても乗れなくてもいいから、とにかく作ってみたいなぁ」

なんか難しいこと言ってるけど、目がキラキラしてる。
ライオだけじゃなく、きっと他の皆も、夢とか目標の為に遺産を探そうとしてるんだろうな。

…皆で分けるっていうのはダメなのかな、やっぱり。

「お、島見えてきた、ほら!」

ライオの声に、指された方向に目を向ける。小さい、色彩の溢れた島。

「よっし、頑張ろうな!目指せ巨大二足歩行オレロボー!さぁご一緒に。オレロボー!」
「お、おれろぼー」

終。


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何だこのオチは…orz
当サイトキャラの島に来るまでの経過小説、これにて終わりです…orz