◆崩落(オールキャラ)

「あいつ、ホント何考えてるか判んねぇな…」

距離を置いて一塊になってるパーティーの…仲間、と言えるのか…連中が、ひそひそと言葉を交わしている。
どうやら彼らは知り合い同士で、今回は魔法を使える臨時要員を求めていたらしい。

共通、あるいは類似した目的の元に組まれた、即席パーティー。
普段ならそんな煩わしいものになど加わらないが、今回ばかりはどうにもならない理由があって、
目に付いた募集の見知らぬ連中と組んだ。

「見ろよ、あの冷たい目。妙な禁呪でも使ってるんじゃないか?」

一瞥すると、連中は首を竦めて目を逸らした。

この遺跡の魔物は好戦的で、俺のように詠唱を必要とする魔法を使う者には、不利だ。
だが、新たな魔法を習得する為の条件である"転職"とやらには、ここでしか入手出来ない物が必要だった。

普段行動を共にしているホテルの同じフロアに拠点を構える連中は、ここ数日忙しそうにしている。
事情を話してまで、個人的な用事に他人を付き合わせる趣味はない。
即席パーティーに加わることが、現在取れる最善の行動だと考えた。

ストレス面を別にすれば、今日組んだメンバーはバランスも悪くないし、戦闘での問題点はない。
目的物も数こそ足りないが、それなりに手に入った。
ここで確実に入手できるという確信を得られただけでも、よしとしよう。

「…あの、そろそろ帰ろうと思うんですが…」

パーティーメンバーの一人が近付いてきて、おどおどと言葉を口にした。
彼らに危害を加えた覚えは無い。それにも拘らず、なぜこうも怯えるのか。

「…用済みなら、置いて帰ってくれ。パーティーも抜ける」
「は、はい…それじゃあ…」

胡散臭そうにこちらを見ながら、彼らは立ち去っていった。
腕の結晶から、パーティー脱退を知らせる文字が表示される。

湿っぽい洞窟には、魔物のものだろう、断続的に足音や声が聞こえる。
周囲に魔物は見当たらないし、回復アイテムにもまだ余裕がある。脱出用の携帯も持っている。
何より、煩わしい人付き合いからようやく解放された。
足りない目的物を探すついでに、もう少し探索するのも悪くない。

占いを始めとする呪術を生業とする己の一族を見る他人の目は、好奇、畏怖、そして疑念。
人は己にない力、見知らぬ能力を嫌う。

面と向かっては何も言わないが、おそらく普段行動を共にしている連中も。

近付いてくる魔物に、魔力で形成した矢を撃ち込む。
壁役がいない今、さすがにすぐにアイテムが切れた。

目的物はまだ、目標数に届いていない。が、無理をするのは好きじゃない。
発掘や探索の得意なフォウやライオがいれば、すぐに集まるだろうが…頼みごとは得意じゃない。
とにかく一度戻って、出直そう。携帯を取り出した。

ふいに、地面が揺れた。

「地震か…?」

呟いた声が、思いの外響いて、わずかに心臓が鳴る。
肌がぴりぴりする。聞き慣れない、妙な音が遺跡内に響いている。

数歩下がったその目の前で、壁が派手な音を立てて崩れた。
跳ねた小石が携帯を持っていた手に当たり、痛みが走る。

思わず取り落とした携帯は、あっという間に土に飲み込まれた。



どれくらい経ったのか―静寂が戻る。冷や汗をかいたのは久々だった。

辺りは相変わらず暗いが、壁に何らかの発光物質が含まれているのか、完全な暗闇ではない。
壁伝いに歩いてみたが、すぐに行き止まった。

腕の結晶から臨時ニュースが表示された。
今の地震の震度、大雑把な震源地、そして島内の被害。
チェックが済むまで、地下や洞窟には近付かないこと。洞窟内の人間は、速やかに外へ出ること。

…出る手段がない人間は、どうしろと。

アイテムの転送システムは存在しないし、助けを呼んだところで、この土壁は簡単には取り除けない。
魔物も見当たらない、強制送還は受けられない。

結晶からメモが飛び出した。

『お前さん、まだ遺跡か?さっさと出なさい』

差出人は狸教師、ラク。返信するのも面倒だしシャクだなと思っていると、続け様にメモが表示された。

『リュウ、遺跡の中?あたし迎えに行こうか?』ラヴィ、兎娘。
『暗くて落ち着くのかもしれないけど、危ないらしいから一旦出ろよー』バカ獅子ライオ。
『わたしもラヴィと一緒なんだけど、入り口まで行く?携帯ある?』猫娘キャー。
『人工物だけど古いから、一応外に出なさいね』狐姉御フォウ。
『何かあった?近くにいるから、そっち行こうか?』ファル、おっとり牛。
『大丈夫ですか?地下は危ないらしいですのー』イプ、おっとり羊。

…物好きな連中だ。

とりあえず誰か一人に状況を説明するのが得策だろう。出来れば数人で居る、落ち着きのある相手。
少し考えて、キャーのメモの返信機能を選択した。

"落石で閉じ込められた、携帯はない"。

すぐに個人通信が入る。差出人はキャー。

『大丈夫?ケガは?』
「何とも無い」

聞き慣れた声に、妙に心が落ち着いた。他人の声に安心するなど、不覚だ。
友人どころか、仲間であると認識されているのかすら微妙だというのに。

『今ラヴィが皆と島の管理側に連絡してる。とにかく落ち着いて…って、リュウなら慌てないか』
「問題ない」
『―あ、連絡入ったわ。洞窟の外に強制転送する準備をするから、その場で待機してて、だって』
「判った」
『一人じゃ心細いでしょ?共通通信網作るから、皆で話でもしてましょ。ええと…はい、出来たわ』

返答を待たずして、数名で会話できるシステムが表示された。

迷惑をかけている以上、無視するのは悪い気がする。
仕方なく、システムへの入室を指示した。
すぐにキャーとラヴィの声が飛んでくる。

『いらっしゃーい』
『大丈夫?ケガしてない?あたし壁にパンチしてみようか!?』
『やめなさい、そんな事して余計に崩れたらどうするの』

ほよん、と音がして、ラクとフォウの声。

『運がいいんだか悪いんだか。つーかお前さん、一人で遺跡探索か?勇者だねぇ』
『そうよねぇ。私も、まだ一人じゃ自信ないわ…遺跡の魔物、しつこくて』

また音。ライオとファル、それにイプの声。

『携帯持って出ないなんて、けっこうボーッとしてるのなー。慢心は事故の元だぞー』
『でも、ケガしなくて良かったね。すぐ出られるだろうから、頑張って』
『遺跡の入り口まで、皆でお迎えに行きますのー』

遺跡の話、洞窟の話、それぞれの目下の目的の話。
わらわらと話し始めた聞き慣れた声を、おれは奇妙な心持ちで聞いていた。

どうしてこの連中は、おれを構うのか。同じフロアに住んでいるという、"よしみ"というやつか?

そうしているうちに、管理側からメッセージが入った。
転送開始のカウントダウンが始まる。

身の回りを確認して、転送に備えた。耳元では、雑談がのんびりと行き交っている。
足元に魔方陣が浮かび上がって、すぐに景色が変わった。



急に明るくなった視界に、思わず顔をしかめた。
どうやら無事に遺跡の外へと転送されたらしい。目の前に、遺跡の入り口が口を開けている。

「あー!!」

素っ頓狂な声、ラヴィがいつものピンクグローブをはめた手で、おれを指していた。
こちらを見たキャーがあきれた顔を、その隣でフォウが苦笑した。

「リュウ…普通、一言言わない?これから転送されるよーって」
「リュウくんらしいと言えば、らしいけど。通信が繋がっていても言わないなんて、徹底してるわねー」

そういうものなのか。

つまらなそうな顔でライオが、やはり苦笑してラクが口を開いた。

「だよなー。だーから常々もうちょっと社交性を持てって言ってるのに、口を開けば…」
「マジックアロー、な。オレもライオも、いい経験値稼ぎにされてるよなぁ」

期待通りに二人まとめて撃ち込んでやろうか。

杖を持つ手を上げる前に、ファルとイプがのほほんと笑った。

「とにかく、無事に出られてよかったねー」
「ですのー。また地震が起きたらどうしましょうって、皆でお話してましたのー」

ぱたぱたとラヴィが駆けてきて、赤い大きな目でおれを見上げた。

「もー、遺跡探索ならあたしに声掛ければよかったのにー!」
「…いや、だが…忙しそうに走って…」

ラヴィが答える前に、キャーが答えた。

「ラヴィが走り回ってるのは、いつもの事でしょ?で、遺跡には何の目的で入ったの?」

フォウ先生じゃないんだから、研究とか発掘じゃないんでしょ?と彼女は綺麗に笑った。

「…転職とやらに、必要な道具が…」

フォウが口元に指を当てて、首をかしげる。

「遺跡の発掘品なら、どこで何が出易いか、教えてあげられるかも…」
「…いや、だが、忙しそうに…」

おれの言葉を遮って、ラクが軽く手を上げた。

「じゃあ、今度皆で来るか。イプもナントカ言う鉱石、探してたんだろ?」
「せれないと、ですのー。ファルさんやライオさんにも手伝って貰ってるんですけれど…」
「なかなか見付からないんだよねー」
「そもそも敵がしつこくて、探してるどころじゃないしなー」

そのまま雑談に突入しかけたイプたちに、ラヴィがぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「あたし、まだ遺跡入ったことないよー!ね、ね、フォウせんせ、今度あたしも連れてきてー!」
「そうねー。イプちゃんのセレナイトと、リュウくんの転職道具を探しに、皆で来ましょ」
「やったー!フォウせんせ、大好きー!」

ぱたぱたと走って、ラヴィがフォウに抱きつく。

弁当を作るだの、おやつにクッキーを焼くだの、弾丸はどれくらいで足りるかだの、勝手に話は進む。
気付いたように、キャーがこちらを見た。

「聞いてたと思うけど…明後日の朝、ホテルのロビーに集合。リュウ、おっけ?」
「構わんが…どうしてそこまで」

ラヴィが大輪の花のような、凄まじい笑顔を向けた。

「どうしてって、あたしたち友達で仲間だもん、当たり前だよー!」

…いつの間に友達で仲間とやらに分類されたのだろう。
だが…以前なら、ひどく煩わしく思えたハズなのに。

今日組んだ即席パーティーに馴染めなかったせいか、あるいは彼らが妙に馴れ馴れしいせいか。
どちらにしろ、崩落したのは、遺跡の壁だけじゃなかったらしい。

とりあえず帰ろ!と、おれの手を引くラヴィの手が不快じゃないのが、何よりの証拠だろう。

終。


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普通の小説もちまちま書いていこうと思います。
手始めに最難関・無口キャラ、一人称で書いてるのに三人称な気がしてくる謎…。