◆牛羊小説/四葉-後編

先生をお供に、テレポートサービスを利用して、遺跡入り口まであっさり到着。

だけど、ひとくちに遺跡の辺りと言っても、該当範囲はけっこう広い。
細かい場所を聞いておけばよかったかなと思った矢先、またしてもあっさり対象発見。

魔物が入れない安全地帯を出たすぐ近く、緑の集まった場所に、見慣れたピンクとカーマイン。
案の定、イプのクローバー探しをファルは手伝ってるみたい。

二人は時々目を合わせて、何か言葉を交わして笑ってる。危険そうな魔物は見当たらない。
何を話してるんだろう…やだ、気になるじゃない。焚きつけたのは私だし。

「先生、もうちょっと近付いてみましょ」
「あのさぁ、キャーさん。人の恋路を邪魔するヤツはーっていう言葉、ご存知?」
「邪魔なんてしないわ、見守るだけ」
「なら、ここで充分だろ…つーか、先生帰ってもいい?」
「万が一見付かったとき、先生が一緒なら何とでも言い訳できるでしょ?ほら、行こ!」

ブツブツ言ってる先生を引き摺って、慎重にイプたちとの距離を詰める。
幸いイプたちの背後に遺跡の古い土壁が残っていて、私たちはそこに身を潜めた。

「クローバーも可愛らしいけれど、レンゲの押し花も素敵ですのー。
 でも、レンゲのお花はこちらに来てから、見かけていなくて…残念ですの」
「レンゲ…どんな花?」
「あ、植物の本、持って来ましたの…ええと、これですのー」
「ホントだ、可愛い花」
「湿原のほうに探しに行こうかと思っていたんですけれど…魔物さんが怖くて…」
「そっか…今度、護衛しようか?あまり奥までは入ったことないけど、少しくらいなら大丈夫だから」
「お、お願いしても…いい、ですか…?」
「うん、いいよー」

うんうん、上手くやってるじゃない。
普段よりも少しだけ甘いイプの声が、ちょっと耳にくすぐったい。

隣で「若いってイイネー」なんて頷いてるラク先生のタヌキ尻尾を引っ張って、帰ろう、と促した。

その瞬間。

「…あら?ラク先生?」

はっと顔を上げると、ラク先生の長身は、どう見ても土壁からはみ出してる。しまった。

「に、にゃーん」

ラク先生の苦し紛れのネコの鳴き真似に、私は思わず吹き出した。
またしても…しまった。

壁のこちらがわに、イプとファルがのんびりと回りこんできて、そろって首を傾げた。
相手がぼけぼけコンビなだけに、見付かると思ってなかった。つまり、言い訳なんて考えてない。

「キャーさんまで…どうなさったんですの?」
「あ、その…」
「先生たちも、クローバー探し?」

ファルのとぼけた質問に、ラク先生は爽やかな笑顔を浮かべた。

「ま、そんなトコだ。で、収穫っぷりは如何ほどで?」

さすが女性キラー・ラク先生、言い訳と誤魔化しに関しては、私の演技力と五分張れる腕前ね。
あっさり誤魔化されたイプが、小さなカゴに綺麗に詰められたクローバーを見せて、微笑んだ。

「たくさん集まりましたのー。押し葉にして、栞を作るんですけれど…
 先生とキャーさんには、押し葉にしないで、このままお渡しした方がいいですか?」
「お、分けてくれるのか?優しいね。そうだなぁ、先生たちも、イプのお手製の栞が欲しいな」
「分かりましたー。完成したら、お渡ししますね」
「おう、ありがとな。それじゃあ、あとは若い者に任せて帰るとしますか。な、キャーお嬢様?」
「そ、そうね、セバスチャン。それじゃ、私たちはこれで!」

我ながらあからさまに挙動不審だと思うのに、イプたちは「気をつけてねー」なんて手を振ってる。
けっこう本気で心配していただけに、なぜかちょっと悔しい。

だから、別れ際に反撃のつもりで、私は一言だけ残してみた。

「上手くいってるじゃない、イプ。仲良くね☆」

見る間に真っ赤になって頬を押さえたイプの隣で、ファルが不思議そうに首を傾げてた。



後日、私の部屋に、手作りクッキーと四つ葉のクローバーの栞が届いた。
添えられた淡い桜色のカードには、小さな恥ずかしそうな文字で「ありがとう」。

イプとファルが一緒にいる、そんな微笑ましい光景を想像して、四つ葉を指でそっと撫でる。
ぼけぼけな二人だから、急激な進展は望めないだろうけど…うん、きっと上手くいくわ。

終。


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