◆牛羊小説/贈り物(羊・獅子・龍・兎)
今日も島はいい天気です。
こんなにいい天気なんだから、今日は探索はやめて、どこか涼しい木陰で本を読もうかな。
「だぁもう、また失敗かよー!もう産業廃棄物はいらねぇぇ!」
「…貴様を廃棄してやろうか」
合成士さんの前で、ライオさんが金髪をがしがしと掻き回しています。
その隣では、大きなダンボール箱を持ったリュウさんが不機嫌そうに―といっても、
リュウさんの機嫌のいいお顔なんて、ほとんど見たことがないけれど―顔をしかめています。
「あああ、また失敗ー!何だよこれ、材料の質が悪いんじゃねぇの!?」
「…人に材料収集を押し付けておいて、そう来るか…。アローの餌食になりたいらしいな」
どうやら、二人で仲良く何かを合成してるみたいです。
お邪魔しては悪いので、そのまま通り過ぎる事にしました。
「お、イプー!」
見付かってしまいました。
「なななイプ、ちょっと手伝ってくれない?リュウは荷物持つしか能が無くってさぁ」
「…マジックアロー」
リュウさんの手から放たれた光は、綺麗な弧を描いて、ライオさんに見事に命中しました。
私は攻撃魔法が苦手だから、すごく羨ましいな。
「痛〜…この鬼!悪魔!ドラ子!」
「…あの世で後悔しろ、シャワーオブアロー」
リュウさんの手から無数の光が放たれて、吸い込まれるようにライオさんに全弾命中。
やっぱりリュウさんはすごいです。
大きなため息を吐かれてしまうから、魔法を教えてくださいとは言えないけれど。
魔力を増幅させる杖や指輪を着けていない恩恵か、ライオさんは辛うじて無事なようです。
地面に倒れ伏したライオさんに、リュウさんはおもむろに懐から取り出した聖水をドポドポとかけて、
手早く回復魔法を唱えました。
リュウさんは回復魔法が苦手で、水を媒介にしないと効果が表れ難い、と言っていた気がします。
私も媒介を使うようにすれば、攻撃魔法が使えるようになるかな…?
敵さんに水をかけに行っている間に、逆に攻撃されて倒れてしまいそうだけど…。
そうだ、水鉄砲を…
「回復するくらいなら、最初から攻撃す…いえ何でもありませんごめんなさい」
「さっさと合成しろ。失敗するごとにアローを撃つ、覚悟を決めてかかれ」
「スパルタン・ドラ子…」
「…あの世はさぞ美しいところなんだろうな、土産は鬼の角一本でいい。シャワーオブ―」
「いいいイプ、手伝って手伝って!はいコレ持って。入れてーって言ったらここに投入、おっけ!?」
「あ、わかりましたのー」
手渡されたのは、黄色いゴム状の細かいブロック…これ、何でしょう。どこかで見たような。
「ええと、笛を溶かしたところにアンプルと…トルマリンと…あれ?ミンゴはいつだっけ」
「あの、ライオさん…何を作ってらっしゃるんですの?」
「攻撃職の指輪。ほら、明日ファルの誕生日だろー?オレの時は好きなゴハン山ほど作って
貰ったんだけど、オレは料理なんてできないし。だったらこの器用な手先を生かして…」
「器用と言う割には、廃棄物しか作成できていないようだが」
「リュウはこういう時だけは喋るよなー。もっとさぁ、普段から」
「マジックアロー」
「痛いっていうか危なッ!ちょ、プラチナの融点何度だと思ってるんだバカー!」
たんじょうび?そういえば、誕生日をお聞きしたことって無かった。
私も何か、贈りたいな。
シルバー製のアクセサリがお好きだと聞いたけれど、私が選ぶようなハートや天使モチーフじゃ、
ファルさんは気に入らないかもしれないし…。
「ああもう、また失敗かよー。ええと、アンプルに…っと、よし、今だイプ、ゴー!」
そうだ、ぺそさん―ファルさんが可愛がってるペットのブルーペンギン―と一緒に食べられそうな
お菓子を作ってみようかな。
「あの、イプさん?早く早く、固まっちゃうから…!」
ぺそさんはよくビスケットを食べてるけど、クッキーでも大丈夫かな?ぺそさん用には味を薄くして…
「イープー!あああダメだ、固まった…」
「うん、決めましたの!ありがとうございます、ライオさん!あ、コレここに置いておきますのー」
「…へ?あの、イプ…」
「それでは、失礼しますのー」
人の邪魔にならない場所にキャンプを張って、作り慣れてるクッキーを焼きました。
甘い香りが部屋に広がると、何だかちょっと嬉しくなってしまいます。
よろこんで貰えるかな?ファルさんのことだから、きっとにこにこ笑って受け取ってくれると思うけれど。
「ええと、星型がぺそさん用で、ハート型がファルさん、ハウス型が皆さんにおすそ分け…と」
この間散歩中にみつけた、可愛い包装紙とリボン。一目惚れだったけれど、買っておいてよかった。
どんな風にラッピングするか考えかけた時、ぽよん、と腕の結晶からメッセージが飛び出しました。
この島に来た時に支給された結晶は、吸い付くように腕に貼り付いて、触れてもぐらりともしないから、
二度と取れないんじゃないかなんて心配もしたっけ…。
島の中でしか機能しないという話だけど、この結晶はとても便利で、お話から自分やお友達の
現在位置まで表示してくれて…島を出ても、きっとクセで結晶を起動しようとしてしまうだろうな。
ぽよん、とまた音がして、とりとめもなく飛んでいた思考を一気に引き戻されました。
"イプ、入ってもいいー?"、"もしかして、寝てる?"と表示されたメモは、ラヴィさんから。
ようやく慣れてきた操作方法を駆使して、どうぞ、とメッセージを送り返しました。
せっかくだから、味見をしてもらおうかな。それなら、お茶を用意しなくちゃ。
「お邪魔しまーすっ!うわ、美味しそうな匂い〜!わ、クッキー!?」
「いらっしゃいですのー。今、お茶を淹れますね」
「ありがとー!えへへ、いい時に来ちゃったなー。ねね、これ食べていいの?」
「ええ、お味見お願いしたいですの。あ、ハート型のクッキーは、ひとつだけにしてくださいねー」
「はーい!いただきまーす!」
ラヴィさんの元気な声を聞いていると、私まで元気になりそうです。
お気に入りのガラスのティーポットからは、紅茶の優しい香り。
ラヴィさんの分にはお砂糖3杯にミルク、私の分はミルクのみ。
「お待たせしましたの…ラヴィさん?」
紅茶を乗せたトレイを持って部屋に戻ると、珍妙な顔でラヴィさんが固まっていました。
その口には、星型のクッキー。
…あ。
「ご、ごめんなさいラヴィさん、それ…」
「うええ、これ味しないよー…イプもキャーみたいにダイエット中?」
「そ、そうじゃなくて…それ、ぺそさん用に…」
「ぺそ?ファルの?何で?…はっ、イプ、もしかして…!」
「え!?え!?そ、わ、私は別にそんな…ひ、日頃お世話になってるお礼にって…!」
つい先日キャーさんにも指摘されたばかりなのに、ラヴィさんにまで。
一気に顔が赤くなる感覚に、私は慌てて頬を手で押さえて、必死で言い訳を紡ぎだしました。
ラヴィさんが神妙な顔で続ける言葉に、心臓が壊れそう。
だけど、ラヴィさんの口から出たのは、予想外の言葉でした。
「イプ、やっぱりダイエット中なんだね…!誤魔化さなくてもいいよ、誰にも言わないし!」
「え!?あの、ラヴィさん」
「あたし協力するよ、一緒に走ろう!さぁ!」
「わ、ら、ラヴィさん、待っ…」
「あたしはチャンピオン目指して、イプはライトフライ級目指して、頑張ろー!」
「ら、らいとふらい…きゅう?」
ラヴィさんに手をつかまれたかと思うと、あっという間に外へ引っ張り出されて…
それから3時間もの特別メニューに付き合わされて、ホテルに戻ったのはすっかり夕暮れ。
翌日さっそく激しい筋肉痛に襲われたのは…言うまでもありません。
けれど。
ベッドの上で体中の痛みと情けなさ、プレゼントを渡しに行けない悲しさに泣きそうになっていた頃。
ドアをノックする音と、気遣うような優しい声が聞こえて。
あの人が、ブルーペンギンと一緒に現れたから…ちょっとだけ、ラヴィさんに感謝です。
終。
裏作品はもういいから、牛羊かけという意見が来たので流されてみました(・ω・`)
もう流されませんよ!
流されすぎると、心持ちが趣味から義務になって苦痛になっちゃうし(遠い目
ライトフライは46-48kgらしいですが、その下の"ピン級"よりは耳慣れた響きかな、と…;