◆牛羊小説/にび色(牛・羊)

「く、暗いですの…」
「ホント、真っ暗だね…目が慣れるまで、動かない方がいいかな」
「わ、判りましたの…あ、あの、その…尻尾、持っててもいいですか…?」

暗くて表情は判らないけど、イプの声は心細そうに揺れてる。

「あ、うん。大丈夫?見える?」
「は、はい…あ、ご、ごめんなさいっ」

手渡そうと腰のベルトから伸びる尻尾を辿った手が、イプの手に軽く触れた。
それはすぐに引っ込められたけど、柔らかい感触に、ちょっとびっくりした。

古い遺跡の一部だって聞く洞窟の前で、イプは洞窟の中を覗いては一歩入りかけて、
でもすぐ出て…を延々と繰り返してた。
何か落としたのかなって思って話を聞いたら、この遺跡の中でしか採れない鉱石が必要で、
だけど暗いから採りに行けないらしい。

いつも一緒にいるラヴィたちは、今はそれぞれの用事で別行動を取ってるとかで、イプはひとりだった。
涙目で説明する彼女が気の毒で、鉱石採取に付き合うことにしたんだけど、
洞窟の中は想像してたよりもずっと真っ暗で…つまり、冒頭に戻る。

「あ、あの、すみません…付き合わせてしまって」
「ううん、特に予定も無かったし、気にしないで」

「あ、あの、今日はブルーペンギンさん…ぺそさんは…?」
「ぺそのお気に入りのビスケット買い忘れてて、別のビスケットあげたんだけど…拗ねちゃって。
 ベッドの下に潜って出てこなかったから、今日は留守番。目、そろそろ大丈夫?」
「あ、は、はい、大丈夫です…多分…」

暗闇に目が慣れてしまえば、洞窟の壁の薄明かり――フォウ先生は発光物質を含む
苔の一種だって言ってた――と、所々に設置されてる松明で何とか道は見える。

でも魔物の姿は確認し難いし、イプは戦闘が苦手だから、気をつけなきゃ。

「ええと、その鉱石って、その辺に落ちてる物?」
「あ、いえ、詳しくは判らないんですけれど、ここで発掘できたハズだってフォウ先生が」
「発掘…」

この島には、色んな物が埋まってる。
"ドリル"を操作してそれを発掘するんだけど、実際に地面に穴を掘るワケじゃない。
そんな事したら、あちこち穴だらけになって大変だし。

探知したい場所の上で"ドリル"を上手く操作すると、どういう仕組みなのか、アイテムが
ぽんっ!て感じで出現する。
ライオやフォウ先生がドリルで器用にぽんぽんアイテム出すのを見てるのは好きだけど…
ドリルの操作も、アイテムがある場所を見分けるのも、おれはあまり得意じゃない。

「あの、試しにちょっと掘ってみますのー」
「あ、うん」

イプがドリルを操作すると、派手な音が響いて、イプ自身びくっと体を揺らした。

聴覚を制限されているのか、この島の魔物は、音に寄せられることは無いらしい。
視覚も嗅覚も微妙な線で、一定の距離まで近付くと気付かれる…そんな感じ。
でも念の為に周囲に視線と意識を向けているうちに、ドリルの音が止んだ。

イプの足元にポロッと出現したアイテムは、外でもよく見かける青い石。

「ラピスラズリですの…」

小さな青い石を手のひらに乗せて、でもイプの声は沈んでない。

「あちこちで見るけど、綺麗だよね」
「ですのー。加工してアクセサリを作れたら素敵なんですけれど、難しいらしくて…。
 パワーストーンとして持ち歩いたらーって、キャーさんには薦められたんですけれど」
「ぱわーすとーん?」
「はい。石には秘められた力があって、大切にすると力を貸してくれるらしいですのー。
 ラピスラズリだと、たしか決断力や知性を与えてくれるとか…」
「はー…色々あるんだ…」
「調べてみると、石によってそれぞれの歴史や逸話があって、とても面白くて…。
 あ、す、すみません、鉱石を探しに来たのに…」

両手で恥ずかしそうに頬を押さえて、イプは申し訳なさそうに小さくなった。
もしかして怖がられてるのかな。怖がられるような事した覚えはないけど…。

再びドリルを操作し始めたイプの足元に、ポロポロとアイテムが出現する。
どこでも見るようなアイテムに混じって出てくるのは、変な像にいろんな色の石、金のアクセサリ。

「出ませんのー…」
「場所、変えてみる?」
「あ、あの…もうすぐドリル、耐久値無くなるので…」
「そっか…ちゃんと準備して、フォウ先生やライオにも手伝ってもらった方がいいかな」
「そうですね…鉱脈とか地質とか、本で調べたら特徴や見分け方が載っていたので、
 私でも大丈夫かなって思っていたんですが…全然でしたの…」
「何か掘り当てられるだけでも凄いと思うよー。
 おれだと、いつも何も埋まってないところばかり当てちゃって」

イプは一瞬きょとんとして、それからくすくすと笑った。

ふわふわしてて、守ってあげたくなるような…そんな柔らかい雰囲気。
なんだろう、こういうの。和む、っていうのかな。

使い終わったドリルをしまって、イプはスカートとリボンの形を整えた。

「あ、あの、終わりましたの…」
「あ、うん。帰ろっか」
「はい」

あまり奥まで進まなかったから、すぐに出口に辿り着いた。
太陽の光を見ると、やっぱりほっとする。
イプを見ると、同じように安心したように柔らかい笑顔を浮かべて、へこりと頭を下げた。

「あの、ありがとうございました」
「ううん、結局見つけられなかったし…また出直しだね」
「ですの…あの、また…ご一緒させて頂いても…」
「うん、フォウ先生たちにも声かけて…皆で来れば、きっと見付かるよ」
「あ、そうじゃなくて…えと…その…」

スカートのリボンを弄りながら、イプは俯いた。
桜色の髪から覗く耳が真っ赤になってる。何か変なこと言っちゃったかな。

「…な、なんでもないですの…そ、それでは失礼しますー」

もう一度お辞儀して、イプはぱたぱたと走って行ってしまった。

やっぱり、何か変なこと言っちゃったのかな。
謝った方がいいのかな…後で誰かに相談してみようかな。


だけど、ホテルに戻って最初に顔を合わせたキャーに相談してみたら、
よく分からないけど怒られてしまった。
キャーいわく、「鈍い」らしいけど…何が?

終。


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珍しく牛視点、牛羊というか牛←羊ですね…(笑
ものっそい難産だった割に、微妙な出来ですorz