◆狸牛/春時雨

「んあー、びしょびしょー」
「あんなに晴れてたのにな…オレらのラヴラヴっぷりに妬いたのか?」
「あはは、雨でも浴びてアタマ冷やせーって?」

シャツの裾を絞りながら、ファルは笑った。

低い小山を利用した、ちょっとした高低のある、広い公園。
天気のいい休日の午後、オレたちはのんびりと散歩に出掛けた。

…が、突然の雨。

雨宿りできるような場所にいなかったから、浅い洞穴に入った頃には、ずぶ濡れだった。

「髪、下りちゃったな」
「あ、ホントだ…うぅ」

いつもツンツンに上げているファルの真紅の髪が、雨で全部下りている。
必要以上に幼く見えるのを嫌って、ファルはほとんど常に髪を上げている。
オレは、髪を下ろしてる姿もこっそり好きなんだけど。

濡れた体は、存外じわじわと熱を奪われる…一言で言ってしまえば、寒い。
抱きついたら怒るかな。でも寒いし。

「濡れると寒いねー。先生、平気?…わ」
「寒いんだろ?」

同じ事を考えていたんだろう、ぽつりと洩らしたファルの声に、腰と肩を抱き寄せてみた。
迷ったみたいだが、ファルの腕は、ゆるくオレの背中に回された。

…顔がにやける。正直な話、滅茶苦茶嬉しい。

そんな心情を知るワケもなく、オレの肩に頬を当てて、ファルは目を閉じた。

「先生、温かい…」
「もっと温かくしてやろうか?」
「却下ー」
「コラ、真似すんな」

額にキスを落とすと、くすぐったそうに首を竦めた。

オレがよく使う言葉を、ファルは時々真似をする。
それはまるで、共に過ごした時間を体現しているかのようで。

愛しい。
そんな月並みな言葉しか出てこないなんて、オレらしくないけれど。

「あーもう、可愛いなぁ…」
「何が?」
「オレの腕の中の人」
「…放してください」
「はい、却下」

少しだけ抱きしめる腕に力を入れてみた。僅かに身動きして、それでもファルは落ち着いた。

可愛いって言われるのを、ファルは嫌がる。
大きな瞳と緩やかな顔のラインは、ちょっと歳相応には見えない…詰まるところ、いわゆる"童顔"。

「雨、やまないねー…眠くなっちゃいそう」

トドメに、言動はこの通り、どこか幼い。考え方も幼いかって言うと、それは別なんだけれど。

「ファー」

名前を呼ぶと、首を傾げて顔を上げた。
驚かせないように、そっと唇を重ねる。

薄く目を開けてみると、委ねるように、ファルは目を閉じていた。

「…目、覚めた?」

ぽんっ、と頬を染めて、ファルは困ったように眉を寄せた。

「雨、止まなくなっちゃうよ?」
「オレはずっとこのままでも構わないぞ?お前と一緒なら、どこでも天国だし」
「またそういうコト言う…」
「お前は、オレと一緒ってだけじゃ、幸せになれない?」
「…言わないと、分かんない?」

困ったように、上目遣いでファルが言った。頬が紅い。
愛しくて愛しくて、何度も額や頬にキスを降らせた。

雨が、諦めて止むまで。


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完全的甘々バカッポー小説(笑
たぬうし好きです!ていうコメント頂いて、ちょと安心して狸牛小説再開…(*ノノ*)←チキン