※暗めな上に強○掠ってます、苦手な方はこちらから撤退お願いします。

平気な方はどうぞ↓


◆龍牛/悋気 

「ファールー!腹減ったー!」
「ぅわっ」

ライオの声がしたかと思うと、背後から重みと衝撃。辛うじて倒れずに体勢を立て直した。
耳元で、甘えるような声。それまで普通に話をしていたリュウが、あからさまに顔をしかめた。

「ライオさん、腹減って死にそう…ファルのチーズオムレツが食いたいでーす」
「お、いいなぁ。先生も食いたいでーす」

一足遅れで現れたラク先生が、ライオに便乗して片手を軽く上げた。
広場の隅に立つ時計を見ると、ちょうど15時。

「しょうがないなぁ…」
「やったー!ファルだーいすきー!」

ほとんど同い年のハズなんだけど、両手を上げて喜ぶライオはちょっと幼く見えて、おれは少し苦笑した。
ふいにリュウが、くるりとおれたちに背を向けた。心なしか不機嫌ビームが出てる…気がする。

「リュウも食べる?あ、チーズ苦手だったよね。素オムレツ作ろっか」
「えぇー?チーズオム美味いのにー」

ライオの不服そうな声を聞きながら、腕の結晶を操作してキャンプを設置する。
島の管理側が提供してくれたホテルにもキッチンはあるけど、キャンプのほうが気兼ねなく使えるし。

「そだ、ライオ、ベッドの横の目覚まし時計」
「ああ、調子悪いって言ってたっけ。おっけ、任せとけー!」

自分の家のようにライオがキャンプの中に入っていく。
ライオはキャンプ内の機械類を片っ端からメンテしてくれるから、放っておくとちょっと面白い。
キッチンタイマーに無駄に盗難アラーム付いたり、なぜかラジオに火災防止の振動感知付いたりするけど。

くわえていたタバコを携帯用のアッシュトレイに押し込んで、ラク先生が振り返った。

「リュウ、入らないのか?」

振り返りもせずに、リュウはそのまま歩いていってしまった。先生が首を傾げる。

「どうしたんだ、あいつ?チーズは匂いをかぐのも嫌とか?」
「あー、うーん…」
「ファールー!チーズオムー!腹減ったー!」

フォローしておいたほうがいいかな。
ちらりと過ぎった考えは、ライオの声に綺麗に掻き消された。



しょっちゅう自室に引き篭も…閉じ篭りがちなリュウにサインドイッチを届けるようになって、
なんとなく一緒に過ごす時間も増えて、部屋やキャンプに行き来するようになった。
それでもやっぱりリュウの口数は少なくて、相変わらず自分の気持ちや考えを言葉にしない。
ある程度は感覚で分かるけど、何考えてるのか分からない時も多い。

ライオと先生が帰った後、空になったオムレツの皿とマグカップを洗いながら、
ひとつずつリュウが立ち去った時の状況を思い出して並べていった。

ライオと先生にチーズオムを作ることになって、リュウには素オム作ろうかって聞いて…
結局そのままどこかに行っちゃったんだっけ。
どうして急に機嫌悪く…あ、皆と一緒に居る気分じゃなかったのかな。リュウ、賑やかなの苦手みたいだし。

拭いた食器を棚に戻し終わると同時に、計ったように腕の結晶からぽよんとメモが表示された。
本文は簡単な場所がぽろっと書いてあるだけ、差出人はリュウ。

ここに来いってことだろうけど…何か作って行ったほうがいいかな、リュウはオム食べてないし。
少し考えて、簡単なハムサンドとツナサンドを作ってバスケットに詰めて、キャンプを閉じた。

…あれ?もしかしてこれが"甘やかしてる"?

ラク先生が言うには、おれが適当にリュウの意図を読んで動いちゃうから、
なおさらリュウは言葉による意思表示を怠ってる…らしい。

どうすればいいんだろ、何もしなければいいのかな。でも機嫌悪くなるし、必要最低限は話してくれるし…
って、最低限でいいとか思ってるあたりがすでにマズい…?

考えながら歩いてるうちに着いた目的地には、人影はなかった。
代わりに木陰に隠れるように立てられていたのは、見覚えのある外装のキャンプ。
入り口に触れると、侵入可能人数とパスワード入力が表示される。

前に教えてもらったパスワードは、自分の誕生日を並べたような数字だったから、すぐに覚えられた。
一応メモを送って返事を待ってから、パスワードを入力した。景色が変わる。

リュウはいつものようにリラックスチェアに座って、ちょっと不機嫌そうに魔道書を読んでいた。

「リュウ、おナカ空いてる?サンドイッチ作ってきたけど、紅茶淹れようか?」

テーブルに持ってきたバスケットを置くと、本を閉じて、リュウがようやく顔を上げた。
眉間に皺が寄ってる…すごく機嫌悪そうなんだけど。

「ん、何?どこに…」

腕を掴まれて引き連れられた先は、寝室。
そういえばリュウの寝顔って見たことないなー、なんて思ってたら、急に背中を押された。
うつ伏せに倒れ込んだ柔らかいベッドは、リュウのにおいがする。

肩に重みを感じると同時に、耳に濡れた感触。

「ちょっ…リュウ、なに…っ!」

包み紙を破くみたいに乱暴に服を剥がれて、慌てて抵抗しかけた手がベッドに張り付く。
手首とベッドの間に浮かぶ蜘蛛の巣みたいな模様は、たしか敵の動きを封じる魔法。
冷たい大きな手が体中を這う感覚。藍色の髪が目の前に流れて、頭の中が真っ白になる。

「リュウ、なんで…やめて、やだ…なんで」

勝手に涙が出て、景色が歪む。どんなに懇願しても、リュウの動きは止まらなかった。



気だるさと喉の渇きに目を開けると、天井に掛けられた民族風の大きなタペストリーが見えた。

無意識に額に乗せた手に、生温く湿ったタオルが触れた。
サイドボードに置かれた土鍋の端には、噴いた跡。
料理自体慣れてないクセに見よう見まねで土鍋使うとか、そんな事する人物は一人しか思い浮かばない。

物音。複雑な表情を浮かべて、彼はおれが寝てるベッドの横で立ち止まった。

「…それ、お粥?」

叱られた子供みたいな顔で、リュウはこくりと頷いた。
どこか幼いそんな動作を見てしまうと…文句どころか、溜め息すら出ない。

お礼とか謝るとか…そういった系統は、言葉で表現するのもされるのも、たぶんリュウは苦手なんだと思う。
差し入れのお礼のつもりなのか、時々無言でエプロンとか髪留めとか押し付けて走って逃げたりするし。

「…理由、聞いてもいい?」
「………」

突然くるりと方向転換して、リュウは寝室から出て行った。
間髪入れずに、ほよん、と軽い音がして、腕の結晶からメモが飛び出す。

『離れていくと思った。放したくない。』
…いや、口で言おうよ…。
『悪かった。』

「リュウ、そこに居る?」

ドアが薄く開いて、リュウの目が覗く。手招きすると、そろそろと戻ってきた。

「ちょっと屈んで?」

あちこち痛む体を無理矢理起こして、素直に屈んだリュウの頭をベシッと叩いた。
リュウは驚いたような、ちょっとだけ不服そうな顔をして、それからうつむいた。

「…お前が、黙ってライオやラクにされるがままだから…」
「それで勝手に勘違いして暴走したんですか」
「……はい」

素直に答えて、リュウはまたうつむいた。

「怖かったし、痛かったんですけど」
「…ごめんなさい」
「もうしない?」
「……………」

そこで黙るか。
複雑な表情で、伺うような目でリュウはぼそぼそと言葉を紡いだ。

「…無理矢理は、しない…たぶん…」
「絶対?」
「…………」
「しばくよ?」
「はい」
「…お粥、食べていいの?」

こくりと頷いて、慣れない手つきでお椀にお粥をよそって手渡してくれた。
ちょっと焦げてるけど、食べられないほどじゃない。

「…お粥、何回か失敗した?」

最後まで言い終わらないうちに、リュウは思いっきり顔を背けた。…キッチン、惨状なんだろうな…。
でも、誰かに頼まないで自分で作ってくれたのか。普段はどんなに空腹でも作ろうとしないのに。

「美味しいよ、ありがと」

顔を背けながら、少しだけ頷いたその耳が赤くなってる。
物珍しくてつい観察してたら、急にその顔がこっちを向いた。

「…答え、聞いていない」
「…へ?」
「…離れるな。傍に居てくれ」
「あ…うん」
「…よし」

あれ?何となく返事しちゃったけど、今の何?
聞く前に、リュウが嬉しそうに綺麗な笑みを浮かべたから、つい釣られて笑ってしまった。

先生に「甘い!」って怒られそうだけど、恐る恐る抱きしめてくる腕が思ったより優しいから…許そう。
また何かあったら、その時はしばくけど。


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龍牛は他以上にご感想頂く事がないんですが(元々裏は反応ほとんど無いけどorz)、
一度「もっと龍が強引でも良いのでは?」という意見を頂いたような気がするので…やっちゃいましt(殴

でも何気に龍牛はほぼ毎回押し倒してるような…
とにかく、すすすすみませんでしたっ(光速土下座