◆狸牛/二次職
ようやく実戦で使えるようになってきた強力な剣技を、最後に残った敵に向けて放った。
技の反動でよろけた体を横から支えられて、相手の顔を見上げる。
「大丈夫か?」
「あ…ああ、うん、ありがと…」
デュークだかギャンブラーだか言う衣装で微笑む先生を、おれはまだ見慣れなくて…ちょっと慌ててしまう。
だいぶ前に、皆それぞれの理由でそれぞれの師匠を見付けて、指南して貰って。
最近になって、急に皆が皆それぞれの師匠に呼び出されて、よく分かんないけど"試練"とかいうのを受けたら、
いつの間にか"上級職"とやらになっていて。
その時にそれぞれに新しい衣装が支給されて、プライベートな時以外はそれを着るように言われた。
"変装システム"っていうのを利用して特殊な手順を踏めば、今までの格好で歩いてもいいらしいんだけど、
物珍しさで今は皆、"上級職"の衣装に身を包んでる。
「お、どうしたファー、顔赤いぞー?先生に見惚れちゃったかなー?」
「なっ、ちが…見慣れてなくて、ちょっとビックリしただけですっ」
長いコートを風に翻して不敵に笑う姿は、整った顔に腹が立つほど似合ってる。
リュウやフォウ先生みたいに、一回くらい裾踏んで転ばないかな。そしたら可愛げがあるんだけど。
色とりどりのバラが植えられた庭園、いつもどおりにおれの数歩前を先生は歩いてる。
防御単品ではともかく、戦闘能力は明らかにおれのほうが高いと思うんだけど、何度言っても先生は断固拒否。
先生なりに何かこだわりがあるのか、あまりおれに前を歩かせてくれない。
バラの香の乗った柔らかな風に、先生のコートが揺れる。
軽鎧の腰に剣を佩いたおれと、どこかの貴族みたいな姿の先生。どう見ても、隊列の前後が逆じゃないかな。
小走りに先生を追い抜いてみた。
「…コラ。先生の後ろにいなさい」
軽鎧の背中に指が引っ掛かる感触、同時にぐいっと引かれて、戻った位置は先生より僅かに後ろ。
不服を顔に浮かべて睨んでみるけど、先生は気付かない。
また少し走って、先生と並ぶ。先生の青みの強い紫色の瞳が、ちらりとおれを映した。
「もう少し下がりなさい、危ないでしょ」
「おれ、そんなに弱くないよ」
「知ってるけどダメ、下がりなさい」
「やだー」
大きな溜め息。そっと見上げると、不機嫌そうな顔をしてる。
先生が敵の攻撃を魔法の盾で反らして、その隙におれが攻撃。
それが定石だから、先生が前を歩くのは別におかしい事じゃない。
だけど、この庭園には強敵は少ない。城に近い場所ならともかく、入り口に近いこの場所なら尚更だ。
「…先生、質問。なんでそんなに前を歩きたがるんですか?」
ギロリと睨まれて、思わず首を竦めた。すっごく怒ってる。
不機嫌を全面に押し出したまま、それでも先生は口を開いた。
「本気で聞いてるのか?」
「…分からないから聞いたんですけど…」
「ほんっとに鈍いのな、お前」
先生の足が止まって、体ごとこっちを向いた。
大きな手が頬に触れて、軽く顔を持ち上げられる。
端整な顔が近付いてきて、思わず退きかかった腰も抱き寄せられて、ぎゅっと目を閉じた。
柔らかい感触。むせ返るようなバラの香と、先生の匂いと、微かなタバコの臭い。
緩く抱きしめてくる腕に逆らう気が起きないのは、きっとこの庭園が甘ったるい匂いに包まれてるせいだ。
「ケガさせたくないんだよ、お前に」
「…すぐ、治るのに」
「掠り傷ひとつでも、ファーがケガするのはオレが嫌なの。そんなオレの為にも、大人しく守られなさい。ね」
「…すごく言い包められてる気がするんですけど…」
「言い包めてるよ。それでお前の傷が減るなら、先生いくらでも言い包めちゃう」
冗談っぽく笑って、先生はそっと腕を解いた。
先生が歩き始める。数歩遅れで、おれも歩き出す。いつもの位置関係。
スーツ以外の背中は、まだ見慣れないけど…先生の背中を見ながら歩くのは、嫌いじゃない。
言うと調子に乗りそうだから、絶対に言わないでおこう。そう思った矢先。
「先生の背中に見惚れて転ぶなよ〜?」
「なっ…見惚れないし転びませんっ!」
振り返りもせずに笑う声を聞きながら、おれは一瞬で熱くなった頬を押さえて、溜め息を吐いた。
二次狸牛は普通に主従に…見えますよね?気のせい?腐ィルター効果?(´A`;
収拾付かなくなりそうなので願望だけですが、異次元中世Ver.主従たぬうし書いてみたいです。
誰か書いてないかなぁ…(笑