◆狸牛+龍獅子/四人

「だいたいさー、こっちの身にもなれって感じじゃね?ちょっとは相手の都合も考えろってなー」
「はぁ…」
「そもそもさぁ、クチでハッキリ言えよ!って話だよな。態度で通じりゃ言葉はいらねぇっつの」
「うん…」
「ワガママにも程があるよな、ちょーっと待ち合わせに遅れるって連絡入れただけで怒るしさぁ」
「あー…」
「実際に待たせたんならまだしも、事前に連絡したんだぜ?なのに怒るんだぜ?ハラ立つー!」

わしゃわしゃと金髪を掻き乱すライオを前に、おれは苦笑しながらティーカップを置いた。

ラク先生とちょっと早めの3時のお茶の用意をしていたおれのキャンプに、まずライオが乗り込んできた。
今すぐ人数制限しろとかパスワード設定しろとかライオが言ってる間に、遅れてリュウも入ってきて…ケンカ。

結局おれがライオの話を、先生がリュウの話を聞く事になって、先生たちは先生のキャンプに移動した。

「ええと、それで…ケンカの原因は?」
「だーかーらー、今の話だよ!待ち合わせ遅れるって連絡したのに、リュウのヤツ、勝手に怒って…」
「怒って?」
「だいたい今日の約束だって、今朝になって急に言ってきたんだぞ!?勝手だよな!な!」
「リュウが怒って…無表情で走って追いかけてきたとか?」
「違う違う、何も言わずに歩き出して、話しかけても何も言わねぇの」
「それで?」
「アタマ来て、足蹴っ飛ばして逃げた」
「………」

自分の紅茶に角砂糖を入れながら、ライオは平然とそう言ってのけた。
ケンカとか、それ以前の問題な気がするんですけれど。

ドライフルーツのパウンドケーキにフォークを突き刺して、ライオは続けた。

「どうせ"黙ってても察して欲しい"とか思ってるんだ、アイツ。んな器用な事できるかって、メンドーだし」
「美味しい?」
「あ?ああ、コレ?うん、美味い。お前、お菓子も上手くなったのなー」
「イプに教えてもらったし、ライオたちがいつも味見してくれたから」
「そうだよなー、オレたちの存在が大きいよなー。そんなワケでおかわり!」

嬉しそうに差し出したライオの空になった皿に、ケーキをもう一切れ乗せた。

でも仲いいよね、なんて言ったら、また機嫌悪くなるんだろうな…。
リュウも気難しいけど、ライオもちょっとだけ気難しい。

「今日はリュウ、どこに行く気だったんだ?」
「あ?聞いてないけど、多分ガラクタ市じゃないかな」
「がらくた?」
「街の隅っこで時々やってるんだけどさ、壊れた機械のパーツとか安く売るんだよ。掘り出し物の山だぞー」
「あんまり人いない?」
「んにゃ、けっこういる?ほら、魔物倒すのに銃使うヤツけっこういるじゃん、オレもだけど。
 カスタム済みの銃も出るから、自分でいじる自信がないヤツがかなり来てるんじゃないかな」
「リュウ、人多い所嫌いなのに…珍しいね」
「…あー…うん、まぁ…そうだな…」

眉を寄せて、ライオが視線を落とした。忙しく運んでいたフォークも止まってる。
口にはしないけど、リュウはリュウなりに、行動的なライオに合わせようとしてるんだと思う。

フォークの先でパウンドケーキのドライフルーツを弄りながら、ライオは視線を落としたまま。

「先生たちに届けに行こっか、パウンドケーキ」
「あ、ああ…先生、まだコレ食ってないの?」
「うん。リュウも食べるかもしれないし…ライオも少し持ってく?」
「え、いいの!?やった」
「リュウと二人で一本でいい?」
「えぇー」
「ラヴィたちにもお裾分け約束しちゃってるから…それに、リュウは甘い物、そんなに食べなかったよね?」
「あー、そりゃそうだけどさぁ…」

不服そうな表情。仲直りする気にはなってるんだろうけど、ライオはけっこう意地っ張りさんだ。
リュウもそうだから、二人がケンカするとなかなか元に戻らないし、その間は二人とも不機嫌になる。

「…ファルって、やっぱり先生とケンカしたりする?」
「へ?」
「ファルと先生、いっつもにこにこ笑って話してるじゃん。ケンカすんの?」
「時々するよ、先生ワガママだし。先生は外面いいから、人前では全然出さないけど」
「そういう時って、どうしてる?」
「仲直り?うーん…おれが悪い時はおれが謝るし、先生が悪い時は先生が謝る?」
「うっわ、全っ然参考になんない」
「うーん…お詫びと会話の糸口兼ねて、相手の好きな物持ってったり?」
「リュウの好きな物って何」

ライオじゃない?なんて言ったら叩かれるだろうなー…というか、リュウの好きな物をおれに聞かれても。

「んーと…本?」
「あいつ魔道書しか読まねーだろ。んな専門分野の本なんか分かるかよ」
「ええと、じゃあ…サンドイッチ?」
「差し入れかよ」
「普通に謝っちゃえば?蹴っ飛ばしてごめんなさいって」
「オレは悪くねーもん!」

仲直りする気はあっても、ケンカの原因はあくまでリュウなのか。

「んー…リュウも悪いだろうけど、何も言わないからって蹴っ飛ばして逃げてきたのはライオなんだよね?」
「そ、そりゃそうだけどさぁ」
「蹴っ飛ばした事だけでも謝ったらどうかな。ライオが一歩下がってみたら、リュウもちゃんと話聞いてくれるかも」
「えぇー。なんでオレが譲歩しなきゃいけないんだよー。なんかヤだ」

今頃先生も、リュウ相手に苦心してるんだろうな…。
ライオとリュウのケンカに巻き込まれるのは、今に始まったことじゃないけど。

「押してダメな時に引いてみると、面白い反応見られるよ?」
「…体験談?」
「うん。急にオロオロして謝ってくるかも」
「…それ、ちょっと見たい…かも」
「じゃあ、はい」
「はい?」

パウンドケーキと紅茶の入ったポットを入れたバスケットを渡すと、ライオは不思議そうな声を出した。

「先生のキャンプに行って、リュウに渡して、ついでに仲直りしちゃえー」
「ちょ、いつの間にそんな展開に!?」
「あ、先生にはこっちに戻ってくるように伝えてね。いってらっしゃーい」
「なんだそれ、強制イベント!?」
「だってほら、おれも先生もまだパウンドケーキ食べてないし。
 さっさと行って仲直りして、リュウのキャンプにでもお邪魔してのんびりお茶してきなさい」

不服を思いっきり顔に出して、ついでにブツブツ文句を言いながら、それでもライオはバスケットを受け取った。

先生が言うには、ライオもリュウも本当は仲直りしたくて、でも意地を張っちゃうらしい。
そこそこ年齢差があるからか、おれと先生はそんな風にはならないから、厳密なところはおれには分からないけど。

「…仲直りとかじゃなくて、コレ届けに行くだけだからなっ」
「うん、よろしくね。いってらっしゃーい」

仕方なさげにバスケットを抱えて、ライオは腕の結晶を操作した。ライオの姿が一瞬で消える。
ドアや窓は取り付けられるし外も見えるけど、出入りは島のシステムを介してて、ちょっと不思議な感じだ。

ライオが使った食器を洗って棚に戻して、二人分のお皿とティーカップを取り出す。

「ったく、なんであいつらは毎回毎回ケンカするたびにオレらを巻き込むんだか…」

先生の声に振り向く前に、腰に後ろから緩く腕が回って、肩に先生のアゴが乗った。

「お疲れ様ー」
「ホントに疲れたよー。ハラも減ったよー。ファー喰いたいよー」
「最後は却下だけど、パウンドケーキ食べよっか。先生はコーヒー?」
「いや、紅茶でいいよ。コーヒーは今度、お前がオレのキャンプに来た時な」
「ライオたちは先生のキャンプ?」
「それはさすがにアレだから、追い出したよ…今頃どっちかのキャンプで仲良くやってるだろ、ベッドで」
「一言多いです先生。そんなだからセクハラ教師とかナンパ教師とかタヌキとか言われるんだよー」
「コラ。最後以外はお前が言ってるだけでしょ。食器運んどくよ、ソファでいいよな?」
「あ、ありがと…って、テーブルじゃなくてソファ?」

ソファの前にも小さなテーブルは置いてるけど、ホントに小さいから、いつもは椅子付きのテーブルを使ってる。
紅茶のポットとパウンドケーキを持って部屋に戻ると、先生が苦笑した。

「リュウじゃないが、言わずとも察して欲しいなぁ。ヒントは"疲れた"で」
「疲れたから…ソファでぐったり?」
「ハズレ、ソファでファーにくっついていたい、でした」
「あー…先生ってけっこう甘えたさんだよね…」

ほとんど抱き抱える勢いでくっついてきた先生に、ちょっとだけ笑った。
ライオたちも今頃、ちゃんと仲直りしてお茶してるかな。

「んー?ファー、今ライオたちの事考えてただろ」
「へ?何で?」
「心配そうな顔してた。ヤツらの事はもう本人たちに任せて、オレの相手に専念しなさい」
「あはは、はーい」

髪を撫でる先生の手が優しくて、先生の肩に頬を寄せかけた…その時。

「ファルー!酷いんだぜリュウのヤツ!聞いてくれよー!」
「黙れ。戻るぞ」
「触んなよ、1人で戻ればいいだろ!」
「…いい度胸だ」
「な、なんだよ!やろうってのか!?」

入ってくると同時に口論を始めた二人に、先生が大きな溜め息をついた。

「やっと静かになったと思えば…ファー、オレのキャンプ行こう、即行でパスか人数設定すればイケる」
「でも、放っておくワケには」
「じゃれてるだけだろ、放っとけ。食器はあるから、ポットとケーキだけ持っていけばいいよな。ほら、行くぞ」
「う、うん…」

大丈夫かな…でも、いつまでも間に人を挟まないと仲直りできないんじゃ、本人たちも困るだろうし。
ポットとケーキを手に先にキャンプから消えた先生に続いて、おれも腕の結晶を操作した。

「そういえば、今のケンカの原因って何だったんだろ」
「…予想は付くけど、知らんほうがいいと思うぞ」
「え、何?」

一呼吸置いてから、先生の無表情が近付いてきて、耳元で声。
その内容に、おれは耳まで赤くなるのを感じて、慌てて先生のキャンプに駆け込んだ。

…ライオとリュウのケンカには、これからはなるべく関わらないようにしよう…そう心に決めて。


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獅子受けが見たいとのご意見を頂いたので、一本だけ書いてみました。
獅子受けソロでは難しかったので、狸牛混在の牛視点で…(笑

続きとか全く考えずに書いたので、単発だと思っていただければ幸いですorz