◆龍狸/遊興

「…結局さぁ。お前さん、オレが好きなワケ?」

ようやく身繕いを終えて、ラクがタバコに火をつけながら顔をしかめた。
言えば当然のように怒るだろうが、面倒だと思ってしまう。

酔狂のように始まった俺とラクの関係の間に、甘いものなど流れてはいない。
愛だの恋だのとは程遠い、単純な生理現象の解消だけを目的とした関係だ。

俺はラクが嫌いではないが、好きでもない。

「愛している、とでも言われたいのか?」

目を合わせて尋ねる。
逡巡も見せずに、ラクはふいと顔を逸らした。

「別に」

ラクもおそらく俺を嫌ってはいない。が、好かれてもいないだろう。
他の人間…例えば、ラクが想いを寄せているであろう相手に見せる顔は、俺に見せるものとは違う。
そしてそれは、俺も同じなんだろう。

タバコを持つ手首を掴んで、指先でアゴを上げさせる。重ねた唇は、息苦しいほどのタバコのにおい。

「…お前さん、ホント変わり者だよな」
「貴様が言う事か」
「まぁ、そうだけど」

ラクと共有する時間は、いつも気だるい。空気も、会話も、重ねる体も。
安らぎはない。得るものもない。

これが離れていったとしても、俺はさほど気に留めない。
鎖で繋いで閉じ込めてでも傍に置きたいとまでは思わない。

傍に置く為でなく、観賞目的で監禁するなら面白いかもしれないが。

「…何じっと見つめてるんですか。先生の格好よさに見惚れてるのかなー?」
「ほざけ」
「一刀両断ですか…あーあ、ホントに何でお前さんなんぞとこんな関係になったのかね、オレは」
「勇気が無いからだろう」
「はい?」
「伝える勇気も、関係を断ち切る勇気もない。だから動かない」
「うわー…キッツいこと言ってくれるじゃないの、リュウさんってば」

タバコを灰皿に押し消して、ラクはベッドに仰向けに倒れた。軽い言葉は、だが酷く沈んでいる。
伝えることも断ち切ることも出来ず、動かない。それは俺も変わらない。
だから俺はラクを過剰に責めるのだろう。

ラクは、肉体を抉られる以上に言葉を恐れる。
物理的な痛みよりも、頑なに隠している深層を抉り出されることを恐れている。

傷を抉る言葉しか吐かない俺の傍を、それでも離れようとはしない。何か理由があるのか。

「貴様は、なぜ離れようとしない?突き放すのが怖いのか?」

苦虫を噛み潰すような顔で、ラクはすぐに視線を他に移した。

「さぁな。お前さんの毒舌に慣れて、何事にも揺らがない人間になりたい…ってところかな」
「誰の為だ?」
「そこまで答えなきゃいけない義理も義務もないだろ。黙秘権」

少しだけ普段の調子を取り戻した様子で、ラクはいつもの笑みを浮かべた。

「で?リュウさんはオレのことが好きで好きで仕方が無いから、時々オレの部屋に来るのかな?」
「嫌いではないが、好きでもない」
「へぇ、気が合うな」

ラクはベッドに仰向けに倒れたまま、短く笑った。

投げ出された手首をベッドに押さえつけて、再び唇を重ね、綺麗に浮き出た鎖骨に口付ける。

「…あの、リュウさん?本気じゃないですよね?」
「さぁな。貴様は黙って抱かれていればいい、簡単だろう」
「本気か?せっかくシャワー浴びたのに…」
「また浴びればいいだろう」

適当に留められたシャツのボタンを外して、追うように肌を舐める。
顔は無表情を取り繕いながらも、ラクの体は与えられる快楽に正直に跳ねる。

愛でも恋でもない。
この感情を、人はなんと呼ぶのだろうか。


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龍狸は遊びだか実は本気なんだか分からない関係で突き進んじゃおうかと思(殴
ほのぼのラヴ書けなくてすみません(・ω・`)